FUMIO YASUDA「SORA」

FUMIO YASUDA「SORA」に寄せて

安田芙充央さん。
とても尊敬する作曲家でありピアニスト。いや尊敬というよそよそしい言葉で語ってはいけない。
僕は昨年リリースされた『凛』という安田芙充央作品集で2台のピアノに参加させて頂き、日本プロ音楽録音賞「ベストパフォーマー賞」という素晴らしい賞を受賞した。大好きな先輩ピアニストであり、おこがましいが同志であり、友人であり、しかし遠い存在の偉人だ。そういった意味で本当に尊敬している方だ。
のっけから熱くなってしまったが、冷静にせねば。

安田芙充央さんの音楽との出会いは、もう15年くらい前かもしれない。僕は写真を撮るのが趣味で見るのも好きだ。森山大道、中平卓馬、細江英公と共に荒木経惟アラーキーさんも好きだった。そんな訳でArakinemaのDVDを手に入れその写真と共に物凄い世界観で作品に凄みというか異彩を放っていて虜になったのが、「安田芙充央」という名前だった。それから月日は流れ、コロナ禍の頃Facebookで友達申請が来た。その名は安田芙充央さん。驚きと嬉しさで舞い上がってしまった。それを機に、その頃やっていたyoutube「譚歌チャンネル」にゲストとしてお招きする事となり初対面のその日に共演を果たした。それは夢のような時間だった。その後、とんとん拍子に話が進み2台ピアノでレコーディングをする事に誘われ、『凛』が生まれた。そのレコーディングは綿密に書かれた非常に高度な技術がなければ弾くことができないような孤高の曲の数々。本当にスケッチだけで自由にやって良い曲など、初めての経験ばかりでやり甲斐しかないし、全てを録音に注ぎ込んだ貴重な時間だった。おっと、また熱くなっている。いかんいかん興奮して動悸が早まっている。

そんな安田芙充央さんの新作が手元に届いた。
FUMIO YASUDA「SORA」
POURQUOI LABEL
POUR-1012

メンバーを見ると、
Fumio Yasuda : Piano, Melodica, Keyboards, Percussions
Joachim Badenhorst:Vocals, Voice, Clarinet, Bass Clarinet, Tenor Sax
Akimuse:Vocals
Nobuyoshi Ino:Acoustic Bass
Dogen Kinowaki:Flute, Alto Flute
Takako Hagiwara:Flute
Asian Art Strings:Strings (Violin I, Violin II, Viola, Cello)

曲のリストは、
1. SORA
2. Sky Lament
3. Fitari
4. Blady
5. Intolerance
6. Lost Era
7. Gig on the Stairs
8. Light in Ruins
9. A Mom’s Place
10. Mahoroba
11. Lucrezia

となっている。
参加ミュージシャンは2019年のアルバム「Forest」のメンバーに2本のフルートと弦楽四重奏が入っている。
「Forest」のサウンドは極めて繊細で危うい、そして力強く美しく、そして儚い音楽で愛聴していた。

ドキドキしながら1曲目表題の「SORA」。
退廃的な美しさを持つビート、様々なノイズのコラージュ。その影からまさかのJoachim Badenhorstのボーカルと空間を切り裂くようなクラリネットの音。そして安田芙充央のMelodicaとアブストラクトなピアノ。その暗の現生世界には明の浄土世界Akimuseのvoiceとstringsが見え隠れする。混沌の世界。カオス。
地上のノイズが消え、明と暗が徐々に重力を無くしくっきりと姿を濃くし、ゆっくり上昇して行く。やがて天界にだけ存在するかのような観音菩薩が蓮の池の佇む世界観が現れる。

「SORA」は空~KU~とも読める。無我や無常の意を表す。この「無と有、否定と肯定」の対比が壮大に表されているのではないかなと筆者は勝手に解釈して聴いた。
思えばアラーキーさんの作品にも「空」がある。死と生のテーマに根源的に向き合っている。
安田芙充央さんの中にも同じ物があるのだなと思う。そして両者は惹かれあって芸術が突発的にスパークしたのだと思っている。「SORA」というワードはとても安田さんにとって重要なのだろう。

2曲目の「Sky Lament」もそうなのだ。空の哀歌。おそらく「SORA」は「Sky Lament」の異形の曲なのではないだろうか。静かな平穏な和音、メロディーは空に登って行くにつれ狂気を帯びてくるClarinetとのimprovisationの後、テーマが戻って来るが初めのテーマより長2度上げられている。二度と同じ世界には戻って来れない。違う人生を生きる為に。

「Fitari」は2つのFluteとオルゴールのような音とピアノで軽快に弾むように奏でられる。
音階的には殆ど琉球音階だが沖縄色は感じない所が面白い。それはある意味メロディの作られ方が機械的シーケンサーで演奏したように感じられるから。それを人力で演奏している木ノ脇道元さんと萩原貴子さんの技量が超絶だからだろう。


「Blady」とはどういう意味だろう。ポーランド語では「青白い」といった意味があるが。。。
本人に聞くとはぐらかされそうではあるが。もし合ってるとしたらまた安田さんの大切なワードであろう「青」だ。名作「Hevenly Blue」の中の表題曲、大好きな曲「Blue Ruins」、「Blue Era」、「Blue Gallery」などまだあるのではないかな。青空の青とは違う青な気がするのは気のせいか。
この曲はSlow BossaのテイストだがPiano、Clarinet、Bassのシンプルな曲かと思いきや、その裏に低い控えめな音で主張するOrgan、Stringsのアバンギャルドな響きがたまらない変態感を出している。これだな安田さんの美学は。
以前こうおっしゃった事があった。「好きな音楽は、あられもなくロマンチックなもの」
安田さんのロマンティックは甘く危険な香りのする麻薬のようなものだと思う。

「 Intolerance」不寛容。不思議なエレクトロニクスなシーケンスの上でAkimuseさんの気まぐれな女性を象徴したかのように聞こえるvoiceが印象的。女性が不寛容な世間を嘆いているのか、こういうタイプの女性は不寛容だ!と振り回されている男性が嘆いているのか?

「Lost Era」失われた時代。異次元からの響きのようなStrings、Bass Clarinetの叫び、そこに打ち込まれるPianoの毅然とした和音の響き。安田芙充央さんの独壇場。この一見相容れないもののミクスチャー。これだ!The 安田芙充央!

「Gig on the Stairs」はアルバム「花曲」ではErnst Reijseger(cello)とサンプリングされた
Accordionとの自由な会話だったが、そのサンプリングされたパートはPianoに代わり、井野信義さんのBassとJoachim BadenhorstのClarinetの対話となった。

「Light in Ruins」廃墟の中の光。どれくらい昔の事だっただろう。まだこの建造物の中で静かにPianoが奏でられていた平穏な時があった。そして何かの騒乱に巻き込まれ廃墟となってしまった古の建造物に静かに足を踏み入れると、差し込む光の中に昔の平穏が幻のように現れるのだった。そこには長く静かな時間の流れがあった。
こんな想像をさせる安田芙充央さんの曲とPianoのタッチは本当に素晴らしい。

その屋敷にはママがいつもいる場所があった。ママの名前は”Monique”。優しく可憐なママはどこかミステリアスな面もあった。僕にふと見せる横顔には寂しさなのか哀しみなのかわからない表情が薄く滲み出ている。僕はママにふと尋ねてみる。。
こんな物語を想像してしまう「A Mom’s Place」大好きです。

「Mahoroba」安らぎを感じる場所。Flute3声とシンプルなPianoで奏でられる。
こういう淡々と自然のように流れるメロディにも安田さんの優しさ、凛とした佇まいが感じられる。「Song of Nenna」のように。

そして「Lucrezia」 
「Der Kastanienball」というオペラの為に安田芙充央が作曲したアリア。凌辱された美しい王女の嘆きの歌。この悲しくも美し過ぎる曲がPiano Soloで奏でられるとは。アルバム「Hevenly Blue」の中で弦楽オーケストラとSolo Violinで演奏されたバージョンも好きだが、最も好きなバージョンができたなあ。。。以前にこの曲が死ぬほど好きですと安田さんに話した事覚えていてくださったのかなあ。。と図々しいことも頭をよぎる。
単にピアノソロなだけでなくオーケストレーションされたそれぞれのパートが音色の変化を付けながら絶妙な奥行き、陰影を描く。
アルバムの締め括りがこんなに切ない気持ち、込み上げてくるものがあるのに。。すっきりと終われない。そうだもう一度聴かなきゃ!!
安田芙充央さんはご自身の死生観、狂気を帯びたロマンティシズム、センチメンタル。アバンギャルドな精神。優しくも厳しい信念。これらを持って音楽をされている事は実際にヒシヒシと感じる事があるが、このアルバム「SORA」では、それぞれのバロメーターが振り切っている。
明るくハッピーなアルバムでは決してないのに、この気持ちの良い幸福感はなんなのだろう。
自分の深層心理に無意識に語りかけられ、それに気づかされる事によって動揺し、喜びと悲しみの間で悶絶する自分がいる。危ないのに近づきたくなる。甘い毒。理性が吹っ飛んでいく感じ。
これが安田芙充央さんの魔力なのか。
凄いアルバムを聴かせて頂いて、また勇気が湧いてきた。ありがとうございます、安田さん!!!

投稿者 石井彰 : 22:29 | その他 | コメント (0) | -

霜月~所感。

怒涛の1ヶ月が終わりました。色んなことがありました。柊というユニットがツアーを終え解散となりました。長きに渡りチャレンジしてきましたが、区切りをつける時が訪れたのでしょう。悔いはありません。

石井智大(vn)とのユニット『石井家Duo』の九州ツアー、今年もみのり多いものとなりました。新作『Quiet Scheme』というCD写真集を携え(アルバムはライブ会場でも通販でもご購入頂けます)、福岡「bar柑」、熊本「ラフカディオ・ホール」、鹿児島「リモネアホール」の3ヶ所公演。9月の終わりにポーランドのクラクフで行われた世界的なジャズバイオリンのコンペティション「Zeifert Competition」で第3位を獲得して来た智大は一回りも二回りも逞しく頼もしいプレーヤーに成長したと感じるプレイを各地で繰り広げました。Duoの音楽は繊細さと大胆さと自由度がどんどん加速するような気分を存分に味わっています。そして今月頭に智大は結婚パーティーを開催し、新しい門出を迎えました。父として幸せな事です。二人の幸せを願い、その平和な気持ちで11月をゆっくり過ごします。気がつけば肌寒い空気。さらに新しい気持ちで前に進んで行きます。

ライブは少なめに、制作活動を中心にして行きたい。これが自分の今の身体の状態を鑑みた最良のやり方だと考えています。youtubeの動画アップもどんどん行きますよ〜皆様チェックしてチャンネル登録よろしくお願いします。
『Akira Ishii 石井彰チャンネル』

そして、関西時代からの旧友ベーシストの山田良夫さんとのレコーディングが始まりました。こちらは時間をかけて丁寧に仕上げて行きたいと思っています。素晴らしいプレーヤーをゲストに迎えて私達のオリジナルによるアルバムを作ります。乞うご期待です!

来年には北海道在住の写真家岩崎量示さんとのコラボ作品を作る計画が進んでいます。素晴らしい「タウシュベツ橋梁」を題材にした作品です。彼は長年、朽ち果てていく幻の橋を撮り続けている方。

そして、2月に録音してある『Quadrangle』の初の作品!!これがリリース元のレーベルの事で時間がかかっており、なかなか前に進んで行きませんが、皆様に聴いて頂きたいの一心で続けています。

さて、9月に第一回目を行った企画『Bill Evansとの対話』は、11月16日土曜日に第二回目を行います。
今回のテーマは「Billシェフ至高のスタンダードアレンジのレシピ」と題しまして、Bill Evansを語るには避けて通ることのできない、スタンダードアレンジ法を色んな角度から見つめ、その魅力的な秘密に迫りたいと思います。ぜひ聴きにいらして下さいね。

11月16日(土)世田谷用賀「工房花屋」
石井彰Solo Piano
『ーBill Evans との対話ー
vol.2 Billシェフ至高のスタンダードアレンジのレシピ』
15:00 open 16:00 start music charge \4400(税込)(別途 2オーダー)
東京都世田谷区上用賀5-8-11
TEL 03-3700-0872 MAIL hanaya5811@gmail.com


今月はライブが3回あります。

11月10日(日)茅ヶ崎「ハスキーズギャラリー」
『石井彰 Solo Piano ~週末ジャズと茅ヶ崎ビールのアフタヌーン~』
13:30 open 14:00 start 予約¥3,500(1drink付き)
TEL 0467-88-1811 MAIL kato@huskys-g.com

11月30日(土) 世田谷用賀「工房花屋」
石井彰(p) 太田剣(sax) Duo
open15:00 start16:00
music charge \4400(税込)(別途 2オーダー)
東京都世田谷区上用賀5-8-11
TEL 03-3700-0872 MAIL hanaya5811@gmail.com


これからは静かで平和な気持ちで音楽を奏でて行きたい。
そういう気持ちでyoutube動画を作りました。ぜひご覧下さいませ❣️
『Peace Piece』~平和のかけら~という曲です。

投稿者 石井彰 : 13:50 | ライブ | コメント (0) | -
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